福井県坂井市は、全国的にも珍しい市民が寄附金の使い道を提案する「寄附市民参画制度」と「ふるさと納税制度」を組み合わせ、市民の積極的な参画を促しながら地域の魅力を高める革新的な取り組みを行っています。この取り組みは、坂井市総合政策部企画情報政策課ふるさと納税推進室の小玉悠太郎さんの強い信念と不断の努力によって進められました。
坂井市は平成20年から「寄附市民参画制度」を導入し、市民から寄附金の使い道を募り、その決定にも市民の意見を取り入れる形で運用しています。具体的には、防災倉庫の設置や公園の遊具設置といった事業に寄附金を活用しています。この制度の発足当初は返礼品を提供せず、寄附金の使い道を市民に委ねるという純粋な形で行われていました。
しかし、ふるさと納税制度が全国的に広がる中で、他の自治体が返礼品を提供するようになると、坂井市にへの寄附金は次第に減少していきましたが集まりにくくなるという現実に直面しました。これにより、本来の目的であった「市民参画」が困難になり、坂井市は新たな方針を模索することになりました。平成28年にふるさと納税プロジェクトチームが発足し、翌年から返礼品の提供を開始しました。この時、改めて「何のためにふるさと納税に取り組むのか?」というビジョンと共通認識を持つことが重要であると再認識しました。このプロセスは、企業がミッションやビジョンを共有することと非常に似ています。
導入初期の段階では、福井県全体でふるさと納税の返礼品に対する取り組む意欲関心が低く、坂井市も例外ではありませんでした。事業者への理解を得るためには多大な努力が必要でした。地元企業をリストアップし、品物のリストを作成し、時間をかけて一軒一軒営業活動を行いました。この営業活動では、お願い営業を避け、ふるさと納税のメリットを事業者に提示することで、やらされ感を出さないように工夫しました。事業者との契約交渉は最大で長いと4年かかることもあり、その間は定期的にDMメルマガやセミナー、相談会、成功事例の共有などを通じて情報提供を続けました。
このような地道な努力によって、参加事業者は徐々に増加し、当初の36事業者・150品目から、現在では18004事業者・12800品目にまで拡大しました。この取り組みを通じて、福井の豊かな特産品を県内外にPRすることができ、「福井には何もない」というイメージを払拭する一助となりました。返礼品の数が100種類程度では全く不足であり、自治体として注目を集めるためには1000種類以上の返礼品が必要であると言われています。坂井市は現在1200種類の返礼品を提供しています。
さらに、小玉さんは寄附者に対する透明性を重視し、寄附金の使い道を「見える化」しています。ポータルサイトで事業内容と目標額を公開し、毎週達成速報を更新することで、寄附者が自分の寄附がどのように地域に貢献しているかを実感できるようにしています。この結果、寄附者の約7割が使い道に納得し、指定して寄附を行っています。この透明性の確保は、ビジネスにおいても顧客信頼を得るための重要な要素であり、リピーターを増やすことにつながります。寄附者が地域に愛着を持ち、一過性ではなく継続的に寄附を行うことが可能になるのです。
こうした取り組みが評価され、小玉さんは「ふるさとチョイスアワード2020」で「チョイス自治体職員大賞」を、2023年には「地方公務員アワード」受賞しました。坂井市のふるさと納税の取り組みは、寄附者や市民に対する透明性と信頼を基盤に、市の魅力を高め、地域活性化を目指す模範的な事例となっています。
現在、小玉さんは移住定住推進課を兼務し、定常促進の事業取り組みも行っています。単に移住者に金銭的なインセンティブを提供するのではなく、地域との接点を多く持たせ、地域との関わり度合いをKPIとして評価するなど、真のファン開拓に挑戦しています。このアプローチは、ふるさと納税の取り組みと共通しており、地域に対する愛着を育むことが重要です。
坂井市は市民参画と透明性、LTVを重視したふるさと納税の取り組みを通じて、地域活性化と市の魅力向上に成功しています。軸はあくまで市民参画とファンを集めることにあります。これにより、市のファンを増やし、寄附文化の醸成に寄与しています。さらに、移住定住者が増えるという好循環を生み出しており、これらの取り組みはビジネスに通じる要素が多く含まれています。
坂井市の事例は、ビジネスにおける顧客との信頼関係構築やブランドロイヤルティの向上といった重要な要素を示しています。市民や寄附者に対して透明性を持ち、彼らの意見を取り入れながら地域の魅力を高める取り組みは、ビジネスにおいても顧客の信頼を得るための基本原則と言えます。坂井市のふるさと納税の成功は、ビジネスの世界でも応用可能な重要な教訓を提供しています。