「見えないリスク」を可視化する革新技術──赤外分光イメージングが創る持続可能な社会

社会インフラから農業まで、”見えない課題”に挑む香川発ディープテック

Soilook代表 西藤翼

社会インフラの老朽化、プラントでのガス漏洩、農地の成分バランスの偏り──私たちの生活を支える現場には、目に見えないリスクが数多く潜んでいます。これらの「見えにくい兆候」をいかに早期に、的確に捉えるか。この課題に対する革新的な解決策として注目されているのが、「赤外分光イメージング技術」です。

香川県を拠点とするディープテックスタートアップである当社Soilookは、産業界が長年抱えてきた「非接触での成分可視化」という技術的難題に正面から取り組んでいます。構造物の塩害劣化診断、プラントにおけるガス漏洩検知、農業における肥料成分のリアルタイム分析など、すでに数件におよぶPoC(概念実証)を実施し、その技術的可能性と社会的インパクトに大きな期待が寄せられています。

業界の構造的課題とSoilookのソリューション

インフラ管理における従来手法の限界

日本のインフラ管理の現場では、点検業務の多くが人手と経験に依存している状況が続いています。橋梁、トンネル、貯水槽、ガスタンクといった重要施設において、肉眼による目視点検や打音による検査が主流となっており、効率化と精度向上が長年の課題となってきました。

特に、コンクリート構造物の塩害や中性化といった劣化現象は、表面上は判別困難でありながら、構造物の安全性に直結する重要な指標です。従来の検査手法では、コア抜き取りや化学的分析など、時間とコストを要する破壊検査に頼らざるを得ませんでした。

赤外分光イメージング技術による革新

Soilookが開発する赤外分光カメラは、構造物の表層に含まれる塩分・水分・油分などの成分を非接触かつリアルタイムで可視化することを可能にします。この技術により、これまで「見えなかった」劣化の兆候を、カメラを向けるだけで即座に把握できるようになります。

さらに、現場のニーズに応じた小型化(モビリティ対応)も進めており、ドローンへの搭載やヘルメット装着型デバイスの開発により、高所や危険箇所での点検作業の安全性向上も実現しています。

ガス漏洩検知分野での技術展開

エネルギー・化学プラント分野では、アンモニア、メタン、プロパン、二硫化炭素、水素火炎といった高リスク気体の検知技術を確立しました。現在、水素インフラや化学プラント、造船・エネルギー業界を対象とした複数のPoCが進行中であり、保安・環境管理業務の大幅な省力化が期待されています。

従来のガス検知器では点的な測定に留まっていましたが、赤外分光イメージング技術により、広範囲のエリアを面的に監視することが可能となり、漏洩箇所の特定精度と作業効率が飛躍的に向上しています。

農業分野での精密管理技術

持続可能な農業への貢献

農業分野においても、Soilookの技術は革新的なソリューションを提供しています。従来の土壌分析では、サンプリングから結果取得まで数日を要していましたが、赤外分光イメージング技術により、圃場の成分状態をリアルタイムで把握できるようになりました。

ドローンに搭載したカメラシステムにより、農地全体の成分マップを作成し、必要な箇所にのみ適切な量の肥料を施用する「精密施肥」が実現できます。これにより、肥料コストの削減と環境負荷の軽減を同時に達成し、持続可能な農業経営を支援しています。

データ駆動型農業の実現

取得されたデータは、AIによる解析システムと連携し、最適な施肥提案や作物の生育予測にも活用されています。農業従事者の経験と勘に頼っていた意思決定プロセスに、科学的根拠に基づく定量的な判断材料を提供することで、農業の生産性向上と品質安定化に貢献しています。

PoCから社会実装へ──次のステージへの展開

実証実験の成果と事例

創業以来、Soilookは産官学連携のもとで多様な分野でのPoCを実施してきました。

主要な実証実験の成果として以下が挙げられます:

建設業界における実証

  • コンクリート構造物の塩害可視化技術の確立
  • 浮きや剥離の非破壊検出手法の検証
  • 大手ゼネコンとの実用化検討

エネルギー業界での展開

  • LNG(液化天然ガス)施設での漏洩監視システムの構築
  • 水素ステーションでの安全管理技術の検討
  • 石油化学プラントでの連続監視システムの評価

製造業での応用

  • 製造ラインにおける水分・油分の可視化と品質管理
  • 自動車部品製造での表面処理工程の最適化
  • 食品製造における異物検出システムの開発

可視化研究所の建設と将来構想

現在、香川県内に建設中の「Soilook可視化研究所」は、分光技術の研究開発と現場実証を一体化した国内初の専門拠点となります。

この施設では、より軽量で高感度なセンサーの開発や、防爆・防振など実運用に耐えうる製品改良を進めています。

将来的には、地域企業・大学・自治体と連携した「可視化オープンイノベーション拠点」としての活用も視野に入れており、技術の社会実装を加速させる ecosystem の構築を目指しています。

地方発ディープテックスタートアップの意義

受賞歴と社会的評価

Soilookは、「J-Startup WEST」「かがわビジネスモデル・チャレンジコンペ」最優秀賞をはじめとする多数の受賞歴を有しています。

ベンチャー企業でありながら、技術・市場・人材の三位一体での価値創造を行う姿勢が、地方レベルから national レベルまで幅広く評価されています。

地方発イノベーションの可能性

地方にこそ根差した社会課題の解決は、Soilookの原点であり、最大の強みでもあります。大都市圏では見過ごされがちな現場の課題に直接向き合い、実用性の高いソリューションを開発することで、真に社会に必要とされる技術を生み出しています。

最新の営業活動においても、大手ゼネコン、農機メーカー、エネルギー企業からの引き合いが増加しており、PoC段階から実導入フェーズへ移行する案件も着実に増えています。

社会課題解決への取り組みと今後の展望

「誰もが成分の状態を可視化できる世界」の実現

Soilookが描くビジョンは、「誰もが”成分の状態”を簡単に見ることができる社会」の実現です。建設業界や製造業におけるメンテナンスや安全管理、農業での精密施肥、防災分野での初期火災・漏洩検知など、これまで経験と時間、そしてリスクを伴っていた作業を、より安全に、効率的に、そして定量的に行える社会を目指しています。

SDGsへの貢献と持続可能な社会の構築

赤外分光イメージング技術は、複数のSDGs(持続可能な開発目標)達成に直接的に貢献します。インフラの持続可能な管理(目標9)、持続可能な農業の推進(目標2)、クリーンエネルギーの安全管理(目標7)など、技術による社会課題解決の具体例として注目されています。

グローバル展開への準備

日本国内での実証と市場開拓を基盤として、将来的にはアジア・太平洋地域を中心としたグローバル展開も視野に入れています。インフラの老朽化や農業の効率化といった課題は、多くの国が共通して抱える問題であり、Soilookの技術が世界規模での課題解決に貢献する可能性を秘めています。

結び──成分分析で世界の見方を変える

「見えないものを、見えるようにする」。これまで見落としていた兆候や、取り残されてきた現場に光を当てる。Soilookは、赤外分光という新たな「目」を社会にもたらすことで、インフラから環境、農業、防災に至るまで、あらゆる分野での「社会の見えにくさ」に挑戦し続けています。

「成分分析で世界の見方を変えれば、未来の安心・安全は変えられる」──この信念のもと、私たちは今日も、誰かの安心を支える1枚の画像を撮り続けています。社会課題×テクノロジーの交差点に立ち、誰もが安心して暮らせる持続可能な未来社会の実現に向けて、香川から世界へと挑戦を続けてまいります。

この記事を書いた人

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